アルザスの城

アルザスの城

約500城が建造され、現在でも150城近くが確認できる

お城という言葉からヴェルサイユ宮殿のような豪華絢爛な建物をイメージされた方、すみません、アルザスに現存する多くのお城は、多くが廃墟です。そういえば、ヴェルサイユ宮殿ってどうして「宮殿」と呼ばれているのでしょうね。確かに宮殿ではあるんですが、フランス語では「シャトー・ド・ヴェルサイユ」つまりヴェルサイユ城という名で知られています。

それはさておき、アルザスでまず注目したいのはお城の数。建造されたお城の数は500城を超えるとか!ただし、これは調査記録されたお城の数で、今は跡形も残っていないものも含まれます。でも、現在私たちが視覚的に確認できると言われるものだけでも、約150城もあるそうですよ!

南北に長いアルザスの縦の長さが約190㎞なので、150城が縦に並んでいるとイメージしたら、ほぼ1.27㎞毎に1城という計算になります。1.27㎞といったら、大人がゆっくり歩いて16~18分といった距離でしょうか。

もちろん実際には150城が一列に並んでいるわけではありませんが、複数のお城がかなり近い場所にあったりします。

中世に建造された城

アルザスでは、古くは7世紀(日本史で見ると飛鳥時代)にはお城が建造されていたと考えられており、具体的な言い伝えも残っていますが、中世のお城の建造時期は、一般的には10世紀から15世紀にかけて(日本史で見ると平安時代中頃~室町時代中頃)で、現存するお城の多くは12世紀から13世紀のものだそうです。

アルザスでのお城の歴史に名を残した人物がいます。ホーエンシュタウフェン家のシュヴァーベン公フリードリヒ2世です。独眼公という通称でも知られ、アルザスでの権力を拡大するため多くの城を築いたことで、「独眼公は自分の馬の尾にいつも城を付けて引きずっている」と言われたほどです。息子は神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ1世(通称:赤髭王=バルバロッサ)。

Château du Haut-Koenigsbourg
オー・ケニグスブール城

アルザスの人気スポットであるオー・ケニグスブール城(Château du Haut-Koenigsbourg)は、1147年に最初の記述があり、ホーエンシュタウフェン家が築城にかかわっていたことが知られています。

13世紀になると、お城は、一握りの巨大権力者だけの事業ではなくなり、小規模な支配権の領主やミニステリアーレ(領主の使用人や帝国の役人のような身分で、騎士の場合もある)といった地位の人々もお城を建てたり、城主として暮らすようになっていました。

平城と山城

アルザスの歴史においては、消滅した城や現存する城などを全部合わせると、500城余りが建造され、そのうち3分の1が山城、3分の2が平城に分類されるそうです。

つまり過去には平城の方が多く存在していたわけですが、現存する中世の平城はごくわずか。しかも、ほんの一部しか残っていなかったり、改築や増築などにより中世の建築様式をほとんど失っていたりします。別の観点からすると、現在までの変貌の歴史が魅力のひとつですね。

例えば、フランスの最も美しい村のひとつエギスハイム (Eguisheim)のエギスハイム城(別名サン・レオン城)。増築などにより初期の建築の面影はほとんど残っていないのですが、1階部分は10世紀の建造で、城壁は13世紀のものだと考えられています。

Château d’Eguisheim
エギスハイム城とサン・レオン礼拝堂

また、私的所有になっているお城は、通常は一般公開されていませんが、B&B(ベッド・アンド・ブレックファスト=朝食付き民宿)として利用されているお城もあります

例えば以下の3城は各ウェブサイトで部屋の写真などを見ることができます(アルファベット順)。

完全に消滅してしまった平城の中には、かつて存在したことさえ忘れられてしまったものも・・・でも、町や村を歩いていると「城通り」といった通り名を見かけることがあります。お城の形跡が何もない場所に名前だけ、そこから先の歴史を遡ってみるのも面白いですね。

山城の方は、平野部の方が暮らしやすいため山の城を去っていくようになり、次第に無人化していったことから、現存するお城の多くは廃墟となって残っています。

日本のお城の分類では、平城と山城のほかに、平山城と海城もありますが、小高い場所に建てられたアルザスのお城は山城に分類されているようです。

お城を訪れる

中世に建造され現存する要塞城の中には、整備された見学コースや展示スペースなどを持ち、イベントなども開催されるお城がいくつかあり、入場は有料です。アルザスで見学者数トップのお城はオー・ケニグスブール城Château du Haut-Kœnigsbourg)。このお城の記述は12世紀にまで遡りますが、現在のお城の大部分は20世紀初頭の修復・復元によるものです。

これ以外にも、フレケンシュタイン城(Château de Fleckenstein)、リシュテンベルグ城(Château de Lichtenberg)、オーランズブール城(Château du Hohlansbourg)などが有料です。

リシュテンベルグ城

また、キーンツハイム城(Château de Kintzheim)は鷹狩(この城では鷲)などのショーが楽しめる鷲公園になっています(有料)。

こうしたお城は、歴史的建造物であると同時に、観光スポットとしての役割も果たしています。

その他のお城は基本的に無料で見学できますが、場所によっては落石などの危険もあるため注意が必要で、全て自己責任のもとに訪れることになります。また、お城と周囲の自然環境に配慮した訪れ方をしたいものです。

ボランティアなどによるイベントが開催されるお城もあり、特に毎年5月1日は要塞城の日で、様々なイベントが行われます。

廃墟のお城は、いわゆる山城が中心ですので、一部の有名なお城を除いてはアクセス情報が少ないとか、麓の町からお城が見えていても、山道が大変なんじゃないかとか、いろいろ考えると結局何から始めていいかもわからず・・・

実はとても便利なサイトがあるんですよ!Châteaux forts Alsace(アルザス要塞城)」というサイトで、マップからお城を検索すると簡単に情報が得られます。

また、「Le Chemin des châteaux forts d’Alsace(アルザス要塞城の道)」は、28コースで構成され、全部で80城以上を訪れることができるようになっています。全長約450キロ。

町歩きも楽しみたい方には、28か所を結ぶ「La Route des Châteaux et Cités fortifiées d’Alsace(アルザスのお城と要塞町の街道)」の13コースをベースに日程を考えるといいでしょう。

廃墟のお城を見学する前に準備したいこと

山城は立地によって、アクセスしやすいお城から、山歩き上級者向けのお城まで多種多様な環境にあります。また、廃墟であることも考慮すると、いろいろ準備しておきたいものです。

  • アクセスの仕方を調べる(お城によっては、アクセス方法がいくつかあります)
  • 全体の所要時間を予測する(往復時間、見学・滞在時間には余裕をもって)
  • 持ち物を準備する(飲み物、お菓子やお弁当などの食べ物、散策に適した靴、ポンチョかレインコートまたは折り畳み傘、手袋、ストック( トレッキングポール)、帽子、サングラス、救急セット、虫よけスプレー、小型の懐中電灯、着替え用Tシャツ、、日焼け止め、ごみ袋など、必要に応じて準備)
  • トラブルが発生したときに使用できる連絡アイテムまたは連絡方法(山では携帯の電波がつながらないことがよくあります)

手袋は、夏でも岩のごつごつした滑りやすい場所などで、木や岩を掴んで斜面を上り下りすることもあるので、持って行くと便利ですよ。

雨具は、晴れていても何か持って行った方がいいです!山の天気は変わりやすいです。いつも持ち歩いている折り畳み傘を忘れた日に限って、突然雨雲が発生し、雷がゴロゴロ鳴り始めて激しい雨が・・・お城も雨宿りできるような形状ではなく困りました。まあ、廃墟なんですから屋根なんかないですものね。出かける前には必ず荷物チェックをすべきだったと反省しました。

あと、廃墟なので公衆トイレはありせん。これは現地で苦しまないための重要な予備知識(笑)。

「シャトー・フォール・ヴィヴァン(Châteaux Forts Vivants )とは?

シャトー・フォール・ヴィヴァン(Châteaux Forts Vivants )は、「活気ある要塞城」といった意味で、アルザスの要塞城の保全などを行う市民団体の名称です。

廃墟になったお城を訪れると、保全作業などをしているボランティアの人に会うことがあります。ボランティアの人が所属する市民団体は、そのお城だけに関わるNPOです。こうした11団体がいくつも発足して様々な活動をしてきましたが、団体間でのつながりはあまりなかったようです。

そこで2011年に設立されたのがシャトー・フォール・ヴィヴァン。現在は20団体が加盟するネットワーク組織となり、補修技術などのノウハウや活動成果の価値向上での連携を強め、お城の保全作業や歴史遺産としての保護に力を入れています。

お城によっては、それに関わる団体が何十年にもわたって活動してきたおかげで、現在私たちが訪れられるようになったもの、外観がよく見えるようになったものもあります。お城の歴史にロマンを感じるだけでなく、ボランティアの方々の情熱に感動を覚える、アルザスの廃墟城には魅力があふれています。

アクセスの難易度

町歩きのように町の中心部から徒歩10分~30分で気軽に行けるお城もあれば、登山しないとたどり着けないお城など、アクセスの仕方はそれぞれ異なります。

カイゼルスベルグ城(Château de Kaysersberg)は、坂道を登らなければいけませんが、カイゼルスベルグの町の中心部からすぐ近く。カッツェンタル(Katzenthal)にあるウィネック城(Château de Wangenbourg)はぶどう畑の中にあります。

Château du Wineck à Katzenthal
カッツェンタルにあるウィネック城

お城は、歴史的建造物の建築様式維持という目的や構造の複雑さから、バリアフリー化が難しい建造物です。

でも、オー・ケニグスブール城(Château du Haut-Kœnigsbourg)は車椅子利用者のための見学プログラムを年に1回提供しているようですし、オーランズブール城(Château du Hohlansbourg)とリシュテンベルグ城(Château de Lichtenberg)は車椅子で中庭まで入場できるようです。

あなただけのとっておきのアルザスのお城が見つかりますように!


参考

CRDP-Strasbourg, Châteaux

Le Château des Comtes d’Eguisheim (visite.alsace)

Château fort Eguisheim (pop.culture)

Château Grunstein (pop.culture)   

Domaine de Werde  (pop.culture)

Château d'Osthoffen historique   

Châteaux Forts Alsace

Châteaux Forts Vivants

Alsace Terre des Châteaux Forts, La Route des Châteaux et Cités fortifiées d’Alsace

MENGUS, Nicolas, RUDRAUF, Jean-Michel. Châteaux Forts et fortifications médiévales d’Alsace Strasbourg : Editions La Nuée Bleue/DNA, 2013