自然に包まれて眺める雄大なパノラマ
ブクスヴィレール(Bouxwiller)という町にあるバストベルグ(Bastberg)の丘は、ほのぼのした雰囲気の心地よい場所で、雄大なパノラマが楽しめるのも大きな魅力です。360度に広がるビューポイントがいくつもあるんですよ。標高は326メートル。
2012年から地方保護自然地に指定されており、自然に包まれてゆったり過ごせる喜びを実感できます。
この丘の空気とそこに吹く風には何か特別なものが感じられます。自分が1つの生命として、この地に生きる動植物たちと繋がっているような印象を受けるのです。空気と風はまた、自分が地球に属する存在、地球の一員だと改めて思わせてくれます。
遠くの風景に目を向けると、なだらかな丘陵地が続き、時間を超越した世界がここの生き物たちを育んでいるように見えてきます。全体は緑の空間といった感じですが、そこには広々とした牧草地や、道路が描く線などがはめ込まれ、町や村はバランスよく配置されたかのように点在しています。
視野に入りきらないパノラマは、広げた両腕に収まらない幅と、空に向かってどこまでも続く高さ、そして視線の先だけでなく足の下の地底にも伸びる奥行きとが集まって織りなされているのです。
冬の黄昏時に訪れたとき、次第に薄まっていく日の光に代わって、町や村の明かりが灯りはじめました。ほんのり輝く小さな島のように浮き出て、少しずつ暗闇に溶けていく周りの景色が醸し出すひんやりした色彩の中に、優しい暖かさを放っているかのようでした。
テーマ別の散策コース
テーマを持って散策したい方のためには、「地質の小道」、「自然の小道」、「遺産の小道」という3つの散策コースがあります。一番距離が長いのは「地質の小道」です。
3つのコースは一部が共通で、ひとつのコースを進むだけでも他のコースの見学スポットの数か所も通ることができます。
どのコースも大きな十字架の見学スポットを通ります。
地質の小道(6㎞、見学スポット14か所):異なる石を使って造られた塔が7つあり、それぞれに名前が付いています(扉、仮面など)。案内板もあり、この地域の地質的特徴がわかるようになっています。
自然の小道(4.2㎞、見学スポット6か所):果樹やぶどう畑が見れるのも、森の中を散策できるのもバストベルグの丘の魅力です。
遺産の小道(2.5㎞、見学スポット3か所):バストベルグの丘のミステリアスな側面にふれることができるほか、ふたりの詩人(ゲーテ、マリー・ハート)がこの丘をどのように見たかを知ることもできます。
ゲーテのナツボダイジュ
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)は、1770年夏に友人たちとヴォージュ山脈北部を旅行した際にバストベルグの丘も訪れました。
当時ゲーテは21歳で、ストラスブール大学に留学し法律を学んでいました。
それからかなりの年月が経った1808年から1831年にかけて、ゲーテは「詩と真実」という自伝を書いてこの時の旅行についても語っています。
ゲーテはバストベルグの丘の風景とそこから見るパノラマに感嘆し、ここで見つけた貝の化石に興味を示したようです。
「遺産の小道」の見学スポットのひとつにゲーテのナツボダイジュがあります。しかし、この木はゲーテが来た時にはまだありませんでした。
ナツボダイジュの前にある説明表示板によれば、ゲーテ生誕100周年記念として、ブクスヴィレールの町とバストベルグの丘を訪れたことの思い出として、19世紀に植えられたと考えられているそうです。
今日、このナツボダイジュは高さ22メートル、男性の身長ほどの高さでの幹回りは3.70メートルあるそうです。
マリー・ハート
ゲーテのナツボダイジュの近くにある案内板は、詩人であるゲーテとマリー・ハートの詩情と触れ合う機会を提供してくれています。マリー・ハート(Marie Hart) (1856-1924)は、ブクスヴィレール出身の詩人、小説家で、当時はとても人気があったそうです。残念ながら現在はほとんど無名といっていいでしょう。また、案内板の短い紹介文だけからは人物像を知ることができません。でも、別の機会にブクスヴィレールにある「マリー・ハートゆかりの散策コース」を楽しむのもいいですね。
魔女の集う場所
「遺産の小道」では、サバトと呼ばれる集会のためにバストベルグの丘が魔女たちの集合場所となっていたことを知ることができます。
こうした背景から、この丘には魔女にまつわる様々な伝説が残っています。
バストベルグという名前は、もともとは聖セバスティアヌス(フランス語名セバスチャン)の山と呼ばれていたそうです。これは聖セバスティアヌス礼拝堂に由来しているという説明もあります。どこにある礼拝堂なのかまでは詳しくされていませんが、ノイヴィレール・レ・サヴェルヌ(Neuwiller-lès-Saverne)という町の聖ピエトロ・聖パウロ教会の中にある聖セバスティアヌス礼拝堂のようです。
ある著者は、この丘に集まる「魔女たちの呪文や不吉な呪い除けのために」聖セバスティアヌスに加護を祈ったと説明しています。また、更に昔に遡れば、この丘はケルトのドルイド(ケルトの祭司)の儀式の場でもあったとも述べており、バストベルグの丘は、ミステリアスな過去と出会える場所と言えます。
アクセス
ブクスヴィレール(Bouxwiller)の中心部から徒歩約15分。まず「地質の小道」のスタート地点に着きます。
「遺産の小道」だけならバストベルグ駐車場からが便利です。イムブスハイム(Imbsheim)墓地から駐車場まで約800メートル。
参考:
Panneaux explicatifs installés sur la colline du Bastberg
Circuit Marie Hart [en ligne]. Musée du Pays de Hanau [consulté le 11.10.2023].
HART Marie [en ligne]. Yoran Embanner [consulté le 11.10.2023].
Bouxwiller et le Bastberg. Bulletin Officiel du CLUB VOSGIEN (Strasbourg). Janvier 1929. Club vosgien (Strasbourg). Disponible sur Numistral
THIELING, Gauthier, Hanau-Lichtenberg, Bouxwiller, Pays d'Alsace. juillet 1955, Société d'histoire et d'archéologie de Saverne et environs (Saverne), p.6. Disponible sur Numistral