1. 採掘場の跡地
2. 消防水利としての役割
3. 湖の整備と美化
4. 散歩のアイデア
5. アクセス
採掘場の跡地
ストラスブール空港のある村エンツハイム。空港とは全く別の時間が流れているような場所に湖があるんですよ。航空写真を見ると正三角形に近い形をしていることがわかります。一辺が約100メートルなので、大きさからしたら池に分類した方がいいんじゃないの?と思われることでしょう。
でも昔から「エンツハイムの湖」と呼ばれていたのだそうです。
エンツハイム市のサイトには、この湖の歴史がわかるページがあります。それによると・・・
湖は1760年ごろに住民たちが作ったものだそうです。つまり人造湖ですよね。ではどうして作ったのかと言えば、なんと粘土採掘場の跡地を利用するため。その頃の記述で既に「湖」という名称になっているそうです。一方で、「粘土の穴」を意味する土地の言葉でも呼ばれていたことも知られています。
採掘された粘土は、アルザスの伝統的な木組みの家の土壁に使われていたと言いますから、当時の人々はすぐ近くで得られる材料を使って家を作っていたことがわかりますね。
採掘が行われなくなって跡地には大きな穴が残ったわけです。それがこの湖に。
消防水利としての役割
湖の水はどうやって入れたのでしょうか?実は近くに川が流れていて、そこから水路を通じて湖に引いたのだそうです。この湖、かつては消防水利としての機能もありました。エンツハイム市のサイトで見ることのできる1926年撮影の白黒写真。消防士たちが湖からポンプ車に給水している様子がわかります。水の汲み上げには電気を使っていますが、ポンプ車を引くのは馬2頭という牧歌的な風景です。
地元のボランティア消防士協会が毎年作って売り歩く(住民が買うことで活動支援につながる)カレンダーがあります。2023年のカレンダーの1月の写真は、背景にエンツハイムの湖が写っています。さすがに馬はいませんし、ポンプ車も赤と黄色のいかにも消防というカラーですが、湖はいまでも消防水利としての役割を持っているのでしょうか?この疑問に関しては残念ながら情報がありませんが、湖は消防活動に役立っていたことを思い出させてくれますね。消防水利として使わている場合は、それを示す表示板か消火栓があるそうです。
湖の整備と美化
エンツハイムの湖は、作られてから少しずつ変わってきました。最初は4つも島があったそうです。
1930年代に書かれた記事によれば、コウノトリがカエルを餌にしている様子が見られるとのことですが、私がエンツハイムで見かけるコウノトリは、湖畔ではなく、湖の近くの民家の煙突の上の巣にいます。
湖は何度か大規模な清掃が行われ、1940年代の清掃では水を全て抜き取って湖底まで徹底的に掃除。掘り出した土を湖の周りに寄せたため、湖の面積がそれまでの3分の2になり、島も2つだけに。湖は最初から三角形だったようですので、外側を埋め立てても形は維持したということでしょうか。
上述の1930年代の記事は、湖には魚がたくさんいることも書いています。そして蚊が多かったことも!それでも釣りファンには魅力的な湖だったらしく、1934年には釣りの権利をストラスブールの釣り人協会に付与しています。
この釣りの権利は一種の独占的使用契約のようなもので、湖や池など自治体管轄の場合は自治体が釣り人の市民団体に対して行うものらしく、釣りをする人は個別に釣りカードを購入する必要があります(日本の遊漁券のようなものでしょうか?)。1959年にエンツハイム釣り協会が設立されてからは、権利はこの協会に付与されるようになりました。現在はエンツハイム釣り・養殖協会という名称になって、湖の保守活動も行っています。
釣りだけでなく憩いの場としても昔から親しまれてきた湖は、2000年代に入り美化が進められてきました。2003年には噴水が作られ、2007年にはステファン・オスヴァルドという芸術家による金属彫刻も湖に浮かんでいます。この彫刻は人間の形をしているので、水面を歩いている姿にも見えます。
2010年から2012年にかけては湖岸整備が行われ、魚には産卵場が、人々には木製の橋が作られました。
現在は大きな噴水と小さな噴水があり、木製の橋も2つあります。
夏は睡蓮が湖の中央部分に美しい模様を描き出します。
湖の周りには樹木が多く木陰があるので、散策にはぴったり。
ベンチは木製ベンチと金属製ベンチの2種類。
クリスマスシーズンは、島のひとつにある木がクリスマスツリーに変身。日没からは幻想的な世界が広がります。湖面に映るツリーの柔らかなイルミネーション、噴水もその姿を水鏡に描き出し、静かにデュオを奏でます。
冬の間は湖畔が雪に覆われた風景が見られることもでき、氷点下の気温が続けば湖面が氷で覆われることも。どのぐらいの頻度で湖は凍るのでしょうか?ネットで見つかった凍った湖の写真は2007年となっています。でも氷はそれほど厚くなさそう。
2013年に公開された動画では、氷の張った湖を複数の人が歩いて楽しんでいる様子が見られます。凍っていない部分はカモのプライベート空間になっています。この動画はおそらく2012年に撮影されたのではないかと思われます。2012年2月に大寒波が到来し、アルザスでは湖や池が凍ったことが地元紙の記事でわかります。
Roland Fraulobさんという方が制作したこの動画、全てが雪で覆われ氷の張った湖の様子がよくわかるのでおすすめです。
2021年2月、雪景色のエンツハイムの湖。部分的に凍っていました。驚いたことに、湖の近くの家の煙突の上の巣には、コウノトリが日光浴をしていました。渡り鳥であるコウノトリがアルザスにやってくる時期は早まりつつあり、今では早ければ2月中旬らしいですが、それにしてちょっと早すぎ。朝晩の寒さは大丈夫だったのでしょうか。
2022年-2023年の冬は、12月17日・18日頃まで氷点下の日も続くほど寒かったのですが、クリスマス直前から気温がぐんぐん上昇して記録的な暖かさが翌年1月中旬まで続きました。
散歩のアイデア
湖からストラスブール・エンツハイム空港の方へ行き、村の中心部に戻ることができます。
1923年に開業したストラスブール・エンツハイム空港は、規模は小さいですが、最初から国際空港としてスタートしました。なぜなら主に離着陸していたのはフランス・ルーマニア航空の飛行機だったからです。1930年代にはエールフランス航空の国際線3航路にも使われていました。
村の中心部の通りは、アルザスらしい木組みの家が多く並んでいます。
エンツハイムの教会はプロテスタント教会ですが、カトリックとの共用になっています。
アクセス
エンツハイムの湖は村役場のすぐ近く。
出典:
Histoire [en ligne]. Entzheim [consulté le 15.01.2023].
A la découverte du bras d'Altorf [en ligne]. Entzheim [consulté le 15.01.2023].
Histoire du Lac d'Entzheim [en ligne]. Entzheim [consulté le 15.01.2023].
HERTRICH, Jules, ENTZHEIM, La Vie en Alsace : revue mensuelle illustrée, janvier 1937, p.198
Bulletin Municipal d’Informations Entzheim Info, N° 24, décembre 2012, p.4
Lac gelé (Entzheim) [en ligne]. GEO.[consulté le15.01.2023].
La galerie d’art Stelor Oswald ouvre aujourd’hui [en ligne]. SUD OUEST, [consulté le