岩の小道
ディフェレンタル(Dieffenthal)という村にある「岩の小道」は、花崗岩を観察しながら地質や岩石の形成を知るだけでなく、ケルトの文化にも触れることができるという、様々な好奇心を掻き立てる散策コースです。
約45分で巡れる短距離コース(青い円の道標)と3キロメートルを約2時間かけて回る長距離コース(黄色い円の道標)があります。ディフェレンタルのサン・ミシェル教会の後ろが共通のスタート地点です。
夏のある日の午前中に長距離コースを試してみました。
出かける前にネットで調べてみたのですが、見つかった岩の小道のマップは簡略化されすぎていて、ループコースであることと、散策しながら様々な形の岩が見れることしかわかりませんでした。
実際にコースを回ってみたところ、このマップ(2022年6月時点で観光関係のサイトで閲覧可能でした)は、間違っている部分があるように思えてなりません・・・このマップをグーグルマップに合わせて見ると、散策コースは教会の南西側に位置していて森はほとんど通過しないはずなのです。ところが、私が青い円の道標に従って歩いたコースは、北側に向かっていて大部分が森の中だったのです・・・
マップとともに得た情報では標高差60メートルとなっていましたが、これも疑問です。出発点は高い所にあるわけではないのに、途中で見た案内板の標高は342メートルでした。
ちなみに現地にもコースマップはありませんでした。
というわけで、岩の小道へ行かれる方はご注意くださいませ。
中世の庭、ケルトの岩、オプファシュタインとヴォルフスキルシュ???
散策コースに入ってすぐ、中世の庭があります。中世の庭というのは、中世によく見られた植物を集めて作った庭のことで、中世から存在している庭というわけではありません。
この中世の庭を過ぎると、木製の東屋(あずまや)と最初の観察ポイントである「ケルトの岩」があります。
岩に丸い窪みがあるのが特徴です。
案内板によると、地表に流れる水が岩の炭酸カルシウムを溶かすことで自然にできた窪みだそうです。自然界が時間をかけて作り出す芸術品には驚かされますね。
この案内板は情報が満載で、次のようなこともわかりました。
-ここから数十メートル先に、ライン地溝帯とヴォージュ山脈の境界となっている断層がある。
-花崗岩石が丸みを帯びるように浸食されているのは、岩石のひびの中に水が入って循環していたことを示している。
残念ながら、断層が近くにあるような感じや地質の特殊性などは、地質学には無知である筆者には全く気付くことができませんでした。
関心は「ケルト」の方に!
「ケルトの石」という名称は、ケルト人たちが「お産椅子」として使っていたという地元の言い伝えに由来しているそうです。
案内板は、ディフェレンタル村に残るケルトの風習についても触れています。
四旬節の最初の日曜日に木製の円盤に火をつけて投げるという伝統です。四旬節はキリスト教の教会歴における期間ですから、キリスト教が広まるずっと以前のケルトの時代からあった習慣がキリスト教社会にも残っていったのでしょう。
「ケルトの石」の背景に広がるパノラマが素晴らしいです!
ケルトの石からしばらく進むと、案内板にフランス語ではない言葉が。オプファシュタイン(Opferstein)とヴォルフスキルシュ(Wolfskirche)。どういう意味でしょうか?
オプファ=犠牲
シュタイン=石
オプファシュタイン=犠牲の石
ということは、オプファシュタインは犠牲のために使われていた石なのでしょうが、残念ながらそれ以上のことがわかる情報はありませんでした。
ヴォルフスキルシュの方はどうでしょうか?
ヴォルフス=オオカミ
キルシュ=教会
ヴォルフスキルシュ=オオカミの教会
ヴォルフスキルシュ(オオカミの教会)の方は、森の中に教会らしきものはないのですが、花崗岩の大きな塊が密集している場所があり、それが教会のように見えるということなのかとも想像できます。また、中世から第一次世界大戦までの長い間、採石場として使われていたようです。それにしてもオオカミとの関連性は謎のままですね。
ところで案内板によれば、この地点の標高は342メートル。上り坂が続きます。
黄色い円の道標を追って進んでいくと、複数の大きな岩が重なり合ったり、地面に立てられたように見えたり、ひとつひとつが離れた場所に分散していたりといった奇妙な場所に着きました。
丸みを帯びた岩もあれば、切り出された石のように平らな面を持つ岩もあります。
ここに案内板はありませんが、古代の人々の聖地のような雰囲気も感じられ、先ほど見た案内板のヴォルフスキルシュ(オオカミの教会)の一部ではという印象を受けました。
花崗岩の立ち並ぶ石の森と言ったところでしょうか。
ここから先はちょっと困ったことに、わかりやすい道標がありません。しかも散策コースと言えるような道がなく、その代わりに細い道があちらこちらに向かって伸びているだけ・・・
ここがループコースの折り返し地点なのでしょうか?それともまだ先に観察スポットがあるのでしょうか?
立ち並ぶ木をかき分けるように進み、その先にあった面白い形の岩を見た後は、道標が見つからないので、坂を下っていくことに。しばらく行くと黄色い円の道標があってホッとしました。
キュラゲルシュタイン(牛囲いの石)、ヘンゼルとグレーテル
下りの散策コースを進むと、案内板もあり、この辺りはかつて公共放牧地として使われていたことがわかりました。そのためキュラゲルシュタイン(牛囲いの石)と呼ばれているのだそうです。
少し奥の方には、形がクジラに似ている岩があり、更に似せるためペイントもされていました。案内板の説明によると、地質時代の第三紀(6千500万年前~260万年前)の間には、アルザス地方は何度も海に覆われていたそうです。
散策コースの終盤は、森から出てすぐに広々とした場所に出るため、そこから見える風景は更に感動的。近くにはオルテンブール城、更に先にはオー・ケニグスブール城が見えるではありませんか!
アルザス平野が視界いっぱいに広がり、その先にはドイツの黒い森(シュヴァルツヴァルト)。絶景を満喫!
絶景に見とれてしばらくしたあと、ふと見ると散策コースの先に巨大な岩があるのに気が付きました。
近づいてみると岩はふたつ。案内板によると「ヘンゼルとグレーテル」という名前がついているそう。グリム童話の作品のひとつですが、これをモチーフにした作品をアルザスの作家オーギュスト・シュトバー(Auguste Stober)が書いているようです。
さて、ふたつの岩はもともとはひとつであったものが、氷結と解氷が繰り返されて40年ほど前にふたつに割れたのだそうです。
ヘンゼルとグレーテルの岩がある地点から、テンチェル山脈が見えます。魔力や魔術の場として、数々の伝説がある山なのだそうです。
ここにはベンチもあって、パノラマをゆっくり堪能することができます。日陰はないので夏は帽子が必須ですよ。
最初に見た木製の東屋(あずまや)の所に戻ります。デジタルパンフレットによれば、他にも観察スポットとなっている岩が2つか3つあるようですが、どこにあったのでしょうか?
散歩のアイデア
長距離コース(黄色い円の道標)を散策するには、適切な服装や持ち物を準備して行かないと危険です。山道に適した靴はもちろんのこと、帽子、飲み物、虫よけなども忘れずに。ベンチがあるのは散策コースの始めと終わりの地点だけです。
公衆トイレはありません。
道幅は狭い所が多いですし、地面が小石で覆われていて滑りやすい所もあります。夏期はマダニや刺(とげ)のある植物にも注意が必要です。
道標によっては、散策コースであることの表示だけで、進行方向を示していないものもあります。
散策コースの最初と最後のパノラマを満喫したい方は双眼鏡を持って行くのもいいでしょう。でもコースの途中には遠景ビューポイントはないんですよ。
花崗岩をじっくり観察したい場合はルーペがあるといいですね。近くで見ると鉱物粒子がキラキラ光っているのですが、その輝きを写真で撮るのはちょっと難しいかも・・・
アクセス
ディフェレンタル(Dieffenthal)のサン・ミシェル教会の後ろに駐車場があります。
セレスタ(Sélestat)からディフェレンタルまで:デマンド交通「TAD 1」。詳細はTIS (Transport intercommunal de Sélestat)のサイトでご確認ください。
参考
Dieffenthal-Circuit des Roches (PDF) [en ligne]. Sélestat Alsace Centrale [consulté le 18.10.2022].
Sentier des roches à Dieffenthal [en ligne]. Visit Alsace [consulté le 18.10.2022].