サンタクロースが登場しても聖ニコラウスは良い子のために
サンタクロースのモデルになったと言われる聖ニコラウス。聖ニコラウスは伝統から姿を消してしまったのでしょうか?
実は、聖ニコラウスの伝統がしっかりと残っている地域が多くあり、アルザスもそのひとつ。
ストラスブールのクリスマスマーケットの起源は、「聖ニコラウスの市場(マーケット)」と呼ばれていたマーケットです。
聖ニコラウスの日は12月6日。「聖ニコラウスの市場」は前日の12月5日にプレゼントを買って、その晩に子どもたちの靴の中に入れるという風習があったそうで、現在も12月6日に聖ニコラウスの日、あるいはそれに近い土日には様々な行事が行われます。
サンタクロースが仕事をするのは12月24日の晩ですから、良い子たちは聖ニコラウスからもサンタクロースからもプレゼントをもらえるんですね。
聖ニコラウスの日は休日ではありませんが・・・
フランスでは、復活祭(イースター)(移動祝日で毎年3月~4月)やクリスマス(12月25日)など、キリスト教関係の祝祭日が1年間に何日かあります。
聖ニコラウスの日は12月6日で、休日ではありませんが、これはキリスト教の聖人暦に基づいています。
日本のカレンダーには、大安や先勝といった六曜、干支も記載されているものもありますよね。フランスのカレンダーには、そうした補足欄のような場所に、聖人歴による毎日の聖人の名が表示されているのが一般的です。
実際には、聖人名だけでなく、復活祭やクリスマスなどのキリスト教関係の祝祭日、元旦や戦勝記念日などの伝統的あるいは歴史的出来事の祝祭日の場合は、この祝祭日名だけが表示されています。
聖人歴をカレンダーに入れるのは、政教分離の観点からすると、ん?という感じもしますが、復活祭やクリスマスなどのキリスト教由来の祝祭日がありますし、キリスト教文化が起源のお祭りなどを開催するための利便上、こうした表示がカレンダーにあるのは自然な流れなのでしょう。
12月6日はサン・ニコラSaint Nicolas(または略してS. Nicolas)(聖ニコラウス)と表示されています。
聖ニコラウスの日はパン・デピスとマネルで祝う
クリスマス商戦が繰り広げられる11月末からは、サンタクロースのイラストやグッズをあちこちで見かけますが、聖ニコラウスの日を祝う風習がある地域では、12月6日、あるいはそれに近い土日にクリスマスマーケットなどに聖ニコラウスが登場します。

聖ニコラウスは、サンタクロースとは衣装などが異なります。聖ニコラウスは司教だったことから、白い司教服に赤いマントをはおり、頭には上の部分が三角形になっている司教冠(ミトラ)をかぶり、先がゼンマイのように丸まっている司教杖(しきょうじょう)と呼ばれる杖を持っています。マントや司教冠は赤でなく、紫や緑の場合もあります。
トナカイはいませんよ!聖ニコラウスはロバに乗って来ると言われることが多いようですが、どちらかというとロバにプレゼントを乗せて歩いて来る姿をよく見かけます。
アルザスでは、中世の頃には、聖ニコラウスの日にオレンジとパン・デピス(はちみつ入りスパイスパン)を子どもにあげる風習がありました。

現在では、パン・デピスとマネル(またはマネラ)と呼ばれる人の形をしたブリオッシュが聖ニコラウスの日のプレゼントの主流です。
悪い子には鞭打ちおじさんハンス・トラップ
聖ニコラウスは子どもの守護聖人ですが、プレゼントをもらえるのは良い子だけです。悪い子には鞭打ちおじさんハンス・トラップが懲らしめにやってきます。
「鞭打ちおじさん」と訳しましたが、実際のフランス語はPère fouettardで、直訳すると鞭打ち父さん。サンタクロースはフランス語でPère Noël、つまり「クリスマスの父さん」ですし、日本でも自分の父でない大人の男性を「おやじ」とか「おじさん」と呼んだりする感じなのでしょう。サンタクロースの方はおじいさんに近い風貌ですが・・・
また、ハンス・トラップは実在の人物がモデルになっています。アルザス北部に近いドイツの城主だったハンス・フォン・トロッタ(1450年頃~1503)は、アルザス北部のヴィッサンブールの神父と対立し、ヴィッサンブールに大損害を与えたことで知られており、人々を恐怖に陥れた人物として歴史に名を残したようです。
アルザスや近隣地域を除いては、単に「鞭打ちおじさん」とだけ呼んでいるようで、逆にアルザスで「ハンス・トラップ」と言えば鞭打ちおじさんのことです。
さて、聖ニコラウスは、ストラスブールのように宗教改革によってプロテスタントが普及した町などでは、クリストキンデル(幼子イエス)という人物に代わった地域もあります。
ハンス・トラップは、子どもを怖がらせるという点では「なまはげ」に似ていますが、ハンス・トラップには神の使いのような役割はなく、聖ニコラウス(またはクリストキンデル)の同行者です。

また、ハンス・トラップの場合は、歴史的には悪魔のような風貌で登場した時期もあるようですが、一般的には仮面などはかぶらず、薄気味悪く汚い感じの人間として登場します。服装もシンプルで、持ち歩くものは、鞭のほかに、悪い子を連れ去るために使うとされる袋です。チェーンを持っているハンス・トラップを見かけることもあります。チェーンによる音が怖さを増すんですよね。
聖ニ聖ニコラウスとクリストキンデルが聖なる人、善なるものや人を象徴し、それと対比して、ハンス・トラップは世俗的な側面や改めるべき悪を表わしているのかもしれません。
実在の人物、聖ニコラウスとは
聖ニコラウスは、フランス語でサン・ニコラ(Saint Nicolas)です。サンは「聖」に相当します。
現在のトルコ共和国に位置する小アジア(アナトリア半島)で生まれ、ミラという町の司教となり(そのためミラのニコラオスと呼ばれる)、325年の第1回ニカイア公会議に出席したとされています。それ以外についてはよくわかっていませんが、人助けの伝説が多いことで知られています。
聖ニコラウスは子どもの守護聖人
聖ニコラウスがなぜ良い子にプレゼントをくれるようになったのか?それは聖ニコラウスが子どもの守護聖人となっているからです。

聖ニコラウスと3人の子ども(1500-1550)
聖ニコラウスにまつわる伝説でよく知られているものが、3人の子どもの生き返り(復活)。どんな話なのでしょうか?
3人の子どもが落穂拾いに夢中になっているうちに、夜になってしまい帰れなくなってしまいました。
しばらく行くと肉屋の明かりが見えてきたので、一晩泊めてほしいと頼みます。肉屋の主人はどうぞどうぞと言って迎えますが、家の中に入るや、肉屋は子どもたちを切り刻み塩漬け樽に入れてしまいます。
7年後、聖ニコラウスが身分を隠して肉屋を訪れ、一晩泊めてくれと頼みます。
肉屋の主人はどうぞどうぞと言って迎えます。聖ニコラウスが何か食べるものがあるかと聞くと、主人はハムなどがあると答えますが、聖ニコラウスはそれらは欲しくない、小さな塩漬け肉がよいと言いました。
これを聞いて主人は逃げ出そうとしますが、聖ニコラウスは「逃げるな、悔い改めよ」と主人に言い、塩漬け樽を見つけて近づきます。聖ニコラウスが塩漬け樽に向かって指を三本伸ばし、三人の子どもたちに起きるよう話しかけると、子どもたちはひとりずつ起き上がり、あー、よく寝たと言って、ふたたび一緒に落穂拾いに行ったとさ。
登場人物の肉屋が宿屋である話や、主人ひとりではなく妻も登場する言い伝えもあるようです。
今日よく知られている伝説の中では、生き返ったのは子ども三人ですが、16世紀頃までは、剃髪した若い聖職者三人だったようです。
三人の子どもを生き返らせたという伝説から、聖ニコラウスは子どもの守護聖人となったんですね。
聖ニコラウスは船乗りや貧者の守護聖人
三人の子どもを生き返らせたという伝説は、海上で嵐にあい遭難しそうになった船乗りたちを聖ニコラウスが救ったという言い伝えがもとになっているそうです。
また、婚期を迎えた娘三人を持つ親が、貧しいために娘たちを身売りさせなければならないと悩んでいたところ、それを知った聖ニコラウスが窓から金貨の入った袋を投げ入れたおかげで、娘三人をそれぞれ身元のしっかりした相手と結婚させることができたという言い伝えもあります。
こうした伝説によって、聖ニコラウスは古くから船乗りや貧者の守護聖人にもなっています。
聖ニコラウスの聖遺物がフランスにある?
ロレーヌ地方にあるサン・ニコラ・ド・ポール聖堂(バシリカ)に聖ニコラウスの聖遺物の一部があります。
聖ニコラウスの没後、遺骨はミラの教会で保管されていましたが、1087年にイタリアのバーリから出航した船乗りたちが略奪し一部を持ち帰ってしまいました。そしてこの聖遺物を収めるための聖堂を建造したそうです。
1098年、ロレーヌの騎士オベール・ド・ヴァランジェヴィルが指の骨1本をロレーヌに持ち帰り・・・サン・ニコラ・ド・ポール聖堂に収められているそうです。
このお持ち帰りの理由は?オベール・ド・ヴァランジェヴィルの前に聖ニコラウスが現れて持ち帰るように言ったという説もありますが、ずばり「盗んで持ち帰った」という説が一般的なようです。
いずれにしても、正式に入手したものではなさそうですね。
しかし、持ち帰った聖遺物によっていくつも奇跡が起きたことから、サン・ニコラ・ド・ポールは巡礼地になり、聖ニコラウスはロレーヌ地方の守護聖人となっています。
La légende de Saint Nicolas et des enfants au saloir - Le blog Gallica
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