12月6日の聖ニコラウスの日

12月6日の聖ニコラウスの日

1.実在した人物、聖ニコラウスとは

2.聖ニコラウスはサンタクロースのモデル?

3.聖ニコラウスの日はパン・デピスとマネルで祝う

4.聖ニコラウスとクリストキンデル(幼子キリスト)

5.悪い子には鞭打ちおじさんハンス・トラップ

6.聖ニコラウスは子どもの守護聖人

7.聖ニコラウスは船乗りや貧者などの守護聖人

8.聖ニコラウスの聖遺物がフランスにある?

実在した人物、聖ニコラウスとは

聖ニコラウスは、現在のトルコ共和国に位置する小アジア(アナトリア半島)で270年ごろに生まれミラという町の司教となり(そのためミラのニコラオスと呼ばれる)、325年の第1回ニカイア公会議に出席したとされています。343年にミラで没した後、お墓に多くの巡礼者が訪れるようになりました。

お墓にあった聖ニコラウスの聖遺物(遺骨)は、11世紀に盗まれてイタリアへ、後にその一部がフランスに持ち込まれました。聖遺物がある場所への巡礼者が増え、ヨーロッパでの聖ニコラウス崇拝が広まったとされています。また、聖ニコラウスには人助けの伝説が多くあり、子供たちや様々な職業の守護聖人として人々に親しまれるようになりました。各地にある聖ニコラウスの名を付けた教会や礼拝堂もこうした聖ニコラウス崇敬の表れと言えます。

聖ニコラウスはサンタクロースのモデル?

聖ニコラウスは12月6日、サンタクロースはクリスマスイブ

サンタクロースのモデルになったと言われる聖ニコラウス。まず、風貌(髭もじゃのおじいさん)と子供たちにプレゼントを配る役割が類似していることが挙げられます。もうひとつの理由は名前です。聖ニコラウスは、フランス語でサン・二コラ(saint Nicolas)、英語でセイント・ニコラス(Saint Nicholas)。サンタ・クロース(Santa Claus)とスペルも発音も似ていますよね。

では聖ニコラウスはサンタクロースに取って代わられたのかと言えば、そんなことはありません。

聖ニコラウスが子供たちにプレゼントを配る伝統がしっかりと残っている地域が多くあり、アルザスもそのひとつです。

サンタクロースがプレゼントを配るのは12月24日の晩ですが、聖ニコラウスは12月6日にプレゼントを持って来てくれます。

聖ニコラウスとサンタクロースの見分け方

聖ニコラウスは司教だったことから、白い司教服に赤いマントをはおり、頭には上の部分が三角形になっている司教冠(ミトラ)をかぶり、先がゼンマイのように丸まっている司教杖(しきょうじょう)と呼ばれる杖を持っていますマントや司教冠は赤でなく、紫や緑の場合もあります

トナカイはいませんよ!聖ニコラウスはロバに乗って来ると言われることが多いようですが、どちらかというとロバにプレゼントを乗せて歩いて来る姿をよく見かけます。

聖人カレンダーと聖ニコラウスの日

フランスでは、復活祭(イースター)(移動祝日で毎年3月~4月)やクリスマス(12月25日)など、休日となっているキリスト教関係の祝日が1年間に何日かあります。

12月6日の聖ニコラウスの日は休日ではありませんが、なぜこの日が聖ニコラウスの日となっているのでしょうか?その理由はキリスト教の聖人暦(聖人カレンダー)にあります。

日本のカレンダーには、大安や先勝といった六曜、干支も記載されているものもありますよね。フランスのカレンダーには、そうした補足欄のような場所に、聖人歴による毎日の聖人の名が表示されているものを多く見かけます。

12月6日はサン・ニコラSaint Nicolas(または略してS. Nicolas)(聖ニコラウス)と表示されています。

聖ニコラウスの日はパン・デピスとマネルで祝う

聖ニコラウスの日のプレゼントと言えば、今日ではパン・デピスとマネル(またはマネラ)と呼ばれるパンが定番です。

パン・デピスは非常に古くから親しまれてきた蜂蜜入りのスパイスパン(スパイスはシナモンやナツメグなど)で、アルザスでは15世紀から急速に普及したと言われています。

マネル(またはマネラ)は、人の形をしたブリオッシュタイプのパンです。マネルも歴史ある食べ物のようですが、中世の頃は、聖ニコラウスの日のプレゼントは、パン・デピスとオレンジ(またはみかん)が一般的だったようです。

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マネル(左)とパン・デピス(右)

聖ニコラウスとクリストキンデル(幼子キリスト)

かつては、聖ニコラウスの日にどのようにしてパン・デピスなどをプレゼントしていたのでしょうか?

1570年から続くストラスブールのクリスマスマーケットその起源は「聖ニコラウスの市場(マーケット)」と呼ばれていた市場です。

16世紀、ストラスブールでは12月6日前後に「聖ニコラウスの市場」が開かれていました。この市場でプレゼントを買って、12月5日の晩に子どもたちの靴の中に入れておくという風習があったようです。

中世において「市場」と大規模な「大市(おおいち)」は非常に重要な催し物でした。ストラスブールの「聖ニコラウスの市場」も「大市」だったようです。また、ストラスブール以外では、15世紀に「聖ニコラウス」の日の「大市」開催を始めた町がアルザスには少なくとも2つありました。

しかし、聖ニコラウスとプレゼントにまつわる当時の風習については、どのぐらい伝播していたかなどがわかる記述は極めて少ないようです。

ストラスブールの「聖ニコラウスの市場」はその後どうなったのでしょうか。

宗教改革の影響を受けてストラスブールがプロテスタントの町になると、聖人崇拝を排除するために聖ニコラウスの市場を廃止。これに代わり1570年から「クリストキンデル(幼子キリスト)の市場」をクリスマス直前に開催するようになりました。聖ニコラウスをお役御免にして、クリストキンデルが12月24日の夜にプレゼントを配るように変えていったようです。

聖ニコラウスもクリストキンデルも、単なるプレゼント配達人ではなく、「良い子どもたち」に「ご褒美」をあげるために来るという点が重要で、悪い子どもたちに反省を促す役を持った人物(鞭打ちおじさんハンス・トラップ)と共に現れます。

ストラスブールの「クリストキンデルの市場」の名は、現在もブログリ広場のクリスマスマーケットに「クリストキンデルスマリックChristkìndelsmärik」として残されています。

プロテスタント文化発祥のクリストキンデルは、後にカトリックの人々の間でも広まっていきました。こうした経緯からすると、聖ニコラウスの日のプレゼントの風習が消え去っても不思議ではないのですが、おそらくは、登場する日が異なることや風習が維持され続けた地域があったことなどで、今日まで続くことができたのかもしれません。

こうした伝統は、カトリックかプロテスタントか、都市であるか農村であるかなど、多種多様な社会的背景や地理的要因などによって、アルザスのそれぞれの町や村で変化してきたことでしょう。

また、今日ではクリスマスマーケットなどに聖ニコラウスやサンタクロースが登場して、子供たちと写真を撮ったりしていますが、かつては聖ニコラウスもクリストキンデルも、かつては聖ニコラウスもクリストキンデルも、もっとミステリアスな存在として各家庭を訪れていたことが数々の回顧録からわかります。

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Source : Bibliothèque nationale et universitaire de Strasbourg / Bibliothèque numérique patrimoniale de l’Université de Strasbourg, 聖ニコラウス、Paul Kauffmann (1849-1940), 1902年

悪い子には鞭打ちおじさんハンス・トラップ

聖ニコラウスは子どもの守護聖人ですが、プレゼントをもらえるのは良い子だけです。悪い子には鞭打ちおじさんハンス・トラップが懲らしめにやってきます

「鞭打ちおじさん」と訳しましたが、実際のフランス語はPère fouettardで、直訳すると鞭打ち父さん。サンタクロースはフランス語でPère Noël、つまり「クリスマスの父さん」ですし、日本でも自分の父でない大人の男性を「おやじ」とか「おじさん」と呼んだりする感じなのでしょう。サンタクロースの方はおじいさんに近い風貌ですが・・・

ハンス・トラップは実在した人物ハンス・フォン・トロッタ(1450年頃~1503)がモデルになっています。ドイツのベルヴァルツシュタイン城の城主だったハンス・フォン・トロッタは、アルザス北部のヴィッサンブールの神父と対立し、ヴィッサンブールに大損害を与えたことで知られており、人々を恐怖に陥れた人物として歴史に名を残したようです。

アルザスや近隣地域を除いては、単に「鞭打ちおじさん」とだけ呼んでいるようで、逆にアルザスで「ハンス・トラップ」と言えば鞭打ちおじさんのことです。

ハンス・トラップは、子どもを怖がらせるという点では「なまはげ」に似ていますが、ハンス・トラップには神の使いのような役割はなく、聖ニコラウスとクリストキンデルの同行者です。

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クリストキンデルとハンス・トラップ 画像はパブリックドメイン

また、ハンス・トラップは、歴史的には悪魔のような風貌で登場した時期もあるようですが、よく知られている姿は、仮面などはかぶらず、薄気味悪く恐ろしい人間として登場します。服装もシンプルで、持ち歩くものは、のほかに、悪い子を連れ去るために使うとされるです。チェーンを持っているハンス・トラップを見かけることもあります。チェーンによる音が怖さを増すんですよね。

昔のイラストではハンス・トラップが手にしているものは、鞭ではなく小さな箒のようなものです。これは、かつて体罰用に使われてた棒の束らしいです。

聖ニコラウスとクリストキンデルが聖なる人、善なるものや人を象徴し、それと対比して、ハンス・トラップは世俗的な側面や改めるべき悪を表わしているようですが、ハンス・トラップだけが家を訪れてプレゼントを配るという風習があった地域や時期もあるそうです。

また、聖ニコラウスとクリストキンデルは光、ハンス・トラップは闇を象徴しているとも言われます。

聖ニコラウスは子どもの守護聖人

聖ニコラウスがなぜ良い子にプレゼントを配るようになったのか?それは聖ニコラウスが子どもの守護聖人だからと言われています。

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« Source gallica.bnf.fr / Bibliothèque nationale de France » 
聖ニコラウスと3人の子ども(1500-1550)

聖ニコラウスにまつわる伝説でよく知られているものが、3人の子どもの生き返り(復活)。どんな話なのでしょうか?

3人の子どもが落穂拾いに夢中になっているうちに、夜になってしまい帰れなくなってしまいました

しばらく行くと肉屋の明かりが見えてきたので、一晩泊めてほしいと頼みます。肉屋の主人はどうぞどうぞと言って迎えますが、家の中に入るや、肉屋は子どもたちを切り刻み塩漬け樽に入れてしまいます。

7年後、聖ニコラウスが身分を隠して肉屋を訪れ、一晩泊めてくれと頼みます。

肉屋の主人はどうぞどうぞと言って迎えます。聖ニコラウスが何か食べるものがあるかと聞くと、主人はハムなどがあると答えますが、聖ニコラウスはそれらは欲しくない、小さな塩漬け肉がよいと言いました。

これを聞いて主人は逃げ出そうとしますが、聖ニコラウスは「逃げるな、悔い改めよ」と主人に言い、塩漬け樽を見つけて近づきます。聖ニコラウスが塩漬け樽に向かって指を三本伸ばし、三人の子どもたちに起きるよう話しかけると、子どもたちはひとりずつ起き上がり、あー、よく寝たと言って、ふたたび一緒に落穂拾いに行ったとさ。

登場人物の肉屋が宿屋である話や、主人ひとりではなく妻も登場する言い伝えもあるようです。

今日よく知られている伝説の中では、生き返ったのは子ども三人ですが、16世紀頃までは、剃髪した若い聖職者三人だったようです。

三人の子どもを生き返らせたという伝説から、聖ニコラウスは子どもの守護聖人となったんですね。

聖ニコラウスは船乗りや貧者などの守護聖人

三人の子どもを生き返らせたという伝説は、海上で嵐にあい遭難しそうになった船乗りたちを聖ニコラウスが救ったという言い伝えがもとになっているそうです。

また、婚期を迎えた娘三人を持つ親が、貧しいために娘たちを身売りさせなければならないと悩んでいたところ、それを知った聖ニコラウスが窓から金貨の入った袋を投げ入れたおかげで、娘三人をそれぞれ身元のしっかりした相手と結婚させることができたという言い伝えもあります。

こうした伝説や様々な他の言い伝えにより、聖ニコラウスは船乗りや貧者の守護聖人であるほか、商人、弁護士、囚人、薬屋などの守護聖人にもなっています。

聖ニコラウスの聖遺物がフランスにある?

ロレーヌ地方にあるサン・ニコラ・ド・ポール聖堂(バシリカ)に聖ニコラウスの聖遺物の一部があります

聖ニコラウスの没後、遺骨はミラの教会で保管されていましたが、1087年にイタリアのバーリから出航した船乗りたちが略奪し一部を持ち帰ってしまいました。そしてこの聖遺物を収めるための聖堂を建造したそうです。

1098年、ロレーヌの騎士オベール・ド・ヴァランジェヴィルが指の骨1本をロレーヌに持ち帰り・・・サン・ニコラ・ド・ポール聖堂に収められているそうです。

このお持ち帰りの理由は?オベール・ド・ヴァランジェヴィルの前に聖ニコラウスが現れて持ち帰るように言ったという説もありますが、ずばり「盗んで持ち帰った」という説が一般的なようです。

いずれにしても、正式に入手したものではなさそうですね。

しかし、持ち帰った聖遺物によっていくつも奇跡が起きたことから、サン・ニコラ・ド・ポールは巡礼地になり、聖ニコラウスはロレーヌ地方の守護聖人となっています。


La légende de Saint Nicolas et des enfants au saloir - Le blog Gallica

Wikipédia français - Hans von Trotha

日本語ウィキペディア-ミラのニコラオス

Saint Nicolas de Myre - Nominis

Fiche activité n°2 - L'histoire des reliques de saint Nicolas - Nancy

Culture : Saint Nicolas et St Nicolas de Port, une belle histoire - Ville de Saint Nicolas de Port

La légende de saint Nicolas - Lorraine

Strasbourg Capitale de Noël – Culture et Traditions, les personnages de Noël

CLAERR-STAMM Gabrielle, Les chapelles dédiées à Saint Nicolas dans le Sundgau,  Annuaire de la Société d’histoire sundgovienne – Janvier 1987, p.203-p.208